東日本大震災に際してお見舞いとお詫び

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このたび、東日本大震災および長野県北部の地震により被災された皆様に、心よりお見舞い申しあげます。そして、尽力される各方面のスタッフやボランティアの方々、自治体の方々、原発を立て直そうと不眠不休で対策されている方々、心より応援致します。

株式会社ネクストマジックは、微力ながら、加盟団体であるコンピュータ利用促進協同組合(CCP)を通じて、支援物資及び義援金のご提供をさせて頂きました。今後も、復興の促進のために当社やCCPの技術が必要とされるならば、例えばIP電話の技術が必要であれば、是非貢献して行きたいと考えております。

そして、このたび、弊社が開発する無線メッシュ技術 Bubble Mesh の開発が間に合わず大変申し訳ございませんでした。Bubble Mesh は、本来はこのような大規模震災の際にSOS信号を如何に届かせるかということが、開発のそもそもの動機であり、当社創業の動機そのものでした。しかし、創業して年月が経つと、受託開発の傍らで開発が遅々となり、製品は完成しないまま時間が経ち、今回の震災に間に合いませんでした。弊社技術が何の役にも立てなかったことを深く深く、お詫び申しあげます。

このBubbleMesh技術について、少しお話しさせてください。もともとBubbleMeshは、SOS信号を必ず遠くの相手に飛ばす通信技術として、10年以上前の当社創業前から、有志で研究していました。

 

●緊急コールセンターと、SOS信号をつなげるMesh技術

当時、弊社創業メンバーと有志は、ひとりひとりのわずかな想いを届ける通信を考えていました。

「助けて!」「大丈夫!」「生きています!」「ここに来て!」 その一言を必ず届けるための通信がBubble Meshです。

すでに世の中には、一言を遠くに伝えるサービスが豊富にあります。電話やメールなどです。しかしこれらは、喋れる、見える、聞こえる、メールを打てる、そんな人しかサポートしません。

●電話もメールも出来ない人はたくさんいる

ところが電話やメールが出来ない人はどこにでもいます。目や耳が不自由な人はもちろん、事故に遭って動けない人。病気で倒れた人、そして、犯罪に巻き込まれて身動き取れない人です。今回の震災のように、既存の通信網がズタズタになっていることもあります。

●身動き出来ない人

そして、事故に遭って動けない人、病気で倒れた人は、電話みたいに「伝えたい人がいるのではなく」すぐ周りの人が気づいて介抱しなければ命に関わります。人工透析の方や、喘息の発作や心臓発作が起きた人などは、時間との勝負です。周りがいかに気づくかが勝負になります。しかし気づくのはとても難しいです。私自身も近隣の人の危機に、全く気づけませんでした。そんなことは繰り返したくありません。BubbleMeshでは、近隣にSOSを伝えることを非常に重視します。

●犯罪に巻き込まれた人

また、犯罪に巻き込まれた場合はどうなるか。

私がいつも思い起こすのは、雨月物語の「菊花の約」です。おおざっぱにいえば、監禁された人が助けを呼べないまま自害したというストーリーです。宗右衛門はとらわれの身になり、自害し魂として義弟の左門の元まで飛ぶことができ、左門にわずかなメッセージを伝えました。

●暗い夜道で女の子が襲われないように守る通信

もっと具体的な例として、有志と考えたモデルシナリオは「暗い夜道で女の子が襲われないように守る通信」です。紹介します。(女の子をお子さん、お年寄りに読み替えても概ね通じます)

すでに世の中には、痴漢防止用の、大音量の威嚇音を鳴らすブザーがたくさんありましたが、こちらのアイデアは、SOS信号を「サイレントで」遠くに飛ばせることが特徴でした。サイレントでないと危険なことは、世の中に多くあるからです。

暗い夜道を歩く女の子は「SOSボタン(=無線端末)」をポケットに携帯しています。ボタンはMinor、Majorの2モードをもって、危険が「近づきそうだ」と女の子が感じたら(=Minor)その時点で、ボタンをポケットの中で長押しします。すると自分の位置と危険な状況などが近隣にばらまかれて、近隣の人達が注意したり、場合によっては駆けつけられる、といった内容でした。危険なことが起きる前に、近隣の人達による「抑止力」が働けばと、思っていました。近隣の人が注意している間に「助けて!」(=Major)が押されたら、周りの人にGOサインが出ます。これで、間に合わないSOSが、少しでも間に合うSOSにかわったかもしれません。

もし最悪、SOSが間に合わずに誘拐まで起こっても、それをトレース出来る仕組みがこのアイデアにはありました。そして、この信号を近隣にばらまく技術がMesh(当時は無線P2P)で、SOS信号を統括収集するのがEmergency Call Center(ECC)と呼んでいたデータセンターでした。ECCでは、統計情報をためて、Minor、Majorの情報の真偽を判定したり、位置情報をトレースしたりする役割がありました。相手がSOS信号を消そうとしても、既にMinorの状態で散らばっている信号の履歴から、消された信号のトレースが出来るといった構造です。この仕組みはBubble Meshの特許の1つにもなっています。

●ATM日本委員会「緊急コールセンター」

このアイデアのサブセットが、ATM(Asyncronous Transfer Mode)日本委員会(ATMの国内のフォーラムです)のアイデアコンテストで受賞した「Emergency Call Center」のアイデア( http://www.iorin.net/atmjig/nl22/nl22c4.html ) です。ATMで同じ事を実現するために、制御セルよりも最優先するセルの種類と、ただ1セルにSOS情報をつめて、この1セルだけ確実に伝送するというBitrateを設けて、センターまで情報を伝える仕組みに変えました(このコンテストではMeshは避けました)。

●ジャングルの中の届かないSOS

一方、前職のプロジェクトで、当時黎明期であったIP電話を普及させるために、香港やマレーシアに頻繁に訪問していたことがあります。ある日の夜中、大雨の中を、KLIA(マレーシアの国際空港)からクアラルンプール市街にタクシーで向かっていました。通過する高速道路の周りは広大なジャングルに覆われています。自分たちの他に車は全く走っていません。ちょうどKLIAから半分ほど進んだあたりで、車が反転して炎上しているのを目撃し、運転手さんと一緒に緊急電話をかけました。車は既に相当燃えていて、気づくのがあまりにも遅すぎました。

そして考えました。先ほどのSOS信号を伝える技術とIP電話の技術を組み合わせることで、通信が出来なさそうな「どんなところであっても」普段は電話を中継し、非常時にはSOS信号を確実に伝えることが出来る、そういう未来を実現するための通信技術として、BubbleMeshの開発が始まりました。

しかし、開発は間に合いませんでした。スマトラ沖の大津波の被害にも、そして日本国内でも、今回の大震災が起こり、貢献できませんでした。

●実装済みの範囲

これまで当社が実装出来たところは、主に、2004年のVEC推薦による補助金によっての部分的な拡散シミュレーションと(OMNESTと3D計算ライブラリ使用)、組込Linux機への移植と小規模な動作確認のところまでであり、基礎的なところまでです。その後は上記のとおり受託中心の形となり、当社が特許を取得した数々の技術に関するところまでは、実装に至っておりません。(特許内容は公開されているので、ご興味のある方はGoogleで当社を検索されると、文献が出てきます)

●特許の今後

特許も、日本・米国・ドイツまで昨年までかかりようやく取得しましたが、残念ながら、上記で分かるように国際特許を長期に維持出来る体力もありません。今回の震災で当社が何も出来なかったことの反省も踏まえ、近々で特許権利を開放することも考えています。

●提携先の募集

今後も提携先をはじめ、協力して頂ける方を探していきます。もしご賛同頂けましたら是非ご連絡ください。また、社内調整含めソースコードの整備まで出来るようになったら、その先はオープンソースにしていくことも検討します。これまで大災害に貢献出来なかったことを反省し、今度こそ形にして、一人でも多くの命を救えるように、頑張っていきたいと思います。何卒今後とも、おつきあいの程よろしくお願い致します。

2011年5月 株式会社ネクストマジック 代表取締役社長 萩原 州